Last-modified:2022/03/03 21:17:37.
ここでは主に、配属先や研究テーマ選択の学生を読者として想定し、 そのための情報を提示します。
私は主に電池材料の研究を理論計算を用いて進めています。 その他、触媒表面の化学反応経路や金属-ゴム界面の接合についての研究を することもありますが、 ここでは最近特に力を入れている電池材料について紹介します。
もし電池が良くなれば、携帯電話はもっと便利になります。
もし電池が良くなれば、エネルギー問題解決に貢献できます。 * 太陽光・風力発電は天候に左右され、電力の安定供給に不安がある。好天候のときに発電した電力を貯蔵し、需要の大きな時に供給する為の二次電池があればこれらの自然エネルギーも産業に組込める。 * 火力発電などにおいても電力需要の少ないときに発電しておいた電力を需要の大きな時に供給することでピークカットに貢献できる。 * これらのことから原子力依存度を減らすことができる。
「誰かが電池を改善してくれたらいいなあ」とぼんやり眺めているのも構いませんが、 自分がその電池を改善して世に発表し、社会に貢献することも可能です。 私と一緒に研究を進める人には、 そのような高い意識をもって研究に取り組んで欲しいと思います。
リチウムイオン二次電池は軽量・小型・高電圧・大容量といった特長を持っており、 携帯電話・ノートPCなどに使用されています. しかし電池に対する要求として、さらなる高出力化、大容量化が常に求められています.
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一般的なリチウムイオン二次電池には現在、正極にはコバルト酸リチウム、負極には炭素が用いられており、 充電状態では負極に存在するリチウムが、放電現象によって移動し、放電状態では負極に存在します. 電池として蓄えられる理論的なエネルギー は充電状態・放電状態のエネルギーの差で決まります. よって、このエネルギー差に注目して物質を探す、というのが電極材料開発の基本的な手段です.
1個のリチウム原子あたりに蓄えられるエネルギーは電気素量と電圧の積となっており、 高い電圧を示す材料を正極材料に用いるべきです. 現行のコバルト酸リチウムよりも高い電圧で動作する物質がいくつか見つかっています. しかし、最大で5V 程度の電圧を示す材料であっても、充放電曲線を見ると電圧にステップが見られるものがあります. さて、この充放電曲線の横軸は回路を流れた電荷の量なのですが、これはすなわち、電池の反応の進行と対応するため、電極のリチウム組成とも対応します. すなわち、より良い電極材料開発のためには、変化するリチウム組成に対して電極材料内部でどのような現象が起きるのかを正確に把握する必要があります. 組成変化に伴う系の構造の変化について理論計算から定量的に評価する方法を確立し、 新規材料開発に役立つ情報を取得する必要があります。 しかしリチウムイオン1個ずつを捉えるようなミクロな観察は実験からはなかなか情報を得られません。 そこで理論計算を用いて材料開発に有用な情報を得ることが有効です。
リチウムは原子番号が最も小さな金属であり、 電池として最も多くのエネルギーを蓄えられる物質の一つです。 しかし、 多くのエネルギーを蓄えられる、 ということは事故の際に放出されるエネルギーが大きくなる、 ということをも意味します。 リチウムイオン電池の電気自動車やハイブリッドカーへの応用が忌避される理由の一つがこの 安全性の確保が困難という点です。
電池の構造 リチウムイオン電池は主に正極、負極、 電解質から構成されており、 正極、負極の間をリチウムがイオンとして移動します。 このイオン伝導に伴って正極、 負極の物質の状態が変化することでエネルギーが取り出されます。 現在のリチウムイオン電池ではこの電解質に可燃性の有機溶媒が用いられているため、 事故などでパッケージが破損したときに流出した液体電解質に着火する危険性が指摘されています。 そこで、この液体電解質を不燃性の固体で置き替えて、 より高い安全性を実現した全固体リチウムイオン電池の開発が進められています。 このためにはよりイオン伝導性の高い固体材料を開発することが不可欠です。
新しい電池材料開発のために(計算機的手法) 新しい電解質材料開発のためには固体中で個々のイオンが受ける力やその挙動を理解することが重要です。 しかしこのようなミクロかつダイナミックな現象を実験によって直接観察する事は困難です。 このような問題には理論計算が有効であり、 これによって実験からは直接得ることができなかった原子1つ1つの挙動をつぶさに調べることができます。
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{{ref_image fig20140327e.png}} Li3N 中での格子間欠陥の伝導経路。
材料開発には起こっている現象を正確に把握することが重要です。 特に様々な場面で系の持つエネルギーを知ることは、現象を理解するのに大きな足掛かりとなります。 理論計算は、 実験からは直接得ることが困難な、 原子1個単位のミクロでダイナミックな現象を正確に解析する強力なツールです。 また、 実験に由来する困難さ・誤差から無縁なデータを得ることができます。 たとえば合成する際に組成比のゆれ、欠陥の存在、低い結晶度といった困難を克服しなければならない場合、 合成の手間丸々省略できるというのが大きなメリットです。 勿論、実験においてこれらをクリアするというのはそれだけで一つの大きな仕事です。 しかし、多数の候補材料のなかから有望なものを絞り込むという作業は、 このような大きな仕事をする前にしておくべきです。
理論計算を用いることで、 現在はまだ合成法の確立していない未来の材料、 すなわち現在我々が手にしていない材料でも、 それが本当に合成を試みる価値があるかどうかを評価することができます。 これらの結果を通して固体中のイオン伝導という現象を包括的に理解し、 ここから得られた知見を新しい材料開発に結び付けていきたいと私は考えています。
近年、化石燃料の高騰化や原子力発電を忌避する傾向から、 太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーが普及してきています。 しかし再生可能エネルギーは天候に依存するものが多く、 供給が不安定になる傾向があります。 この問題解決する1つの手段として安価で大型の蓄電池の開発が望まれています。
Mg二次電池はLi二次電池にくらべ、 Mgが2価の陽イオンであることより、充電容量の観点から有利です。 また、Liに比べてMgは安価という利点もあります。 しかしMg 電池に対する注目はさほど高くなく、 多くの研究がなされているとは言い難い状況にあります。 これを「ほとんどの人がやっていないので無謀な試みだ」と思うこともできますが、 同時に「だからこそ魅力的なフロンティアだ」と見做すこともできます。 このような観点から、Mg 電池の性能を決定する正極・負極・電解質について、 多数の材料候補から網羅的に調べることで 最適な材料を理論計算から探すことを試みています。
本項では主に学生を想定して、 応用例から材料の説明、次にその研究手法という順序で説明してきました。 しかし手法自体は様々な物質に応用できるため、 イオン伝導体を用いた酸素センサーなど 同様の現象を利用した他の応用の材料に適用することも可能です。