はじめてのプレゼンテーション

Ippei Kishida

Last-modified:2019/02/20 14:46:40.

1 構成

1.1 枚数の目安

全体の枚数を 1ページ/分を目安に大体決める。 以下の枚数、もしくはそれより少ない枚数が適切な分量だろう。

PowerPoint 時代になって 2〜5割増くらいの枚数でもいける感じになってきたが、 それでもパッパッとめくっていってしまうと聴衆がスライドの端々まで見る前にめくられてストレスがたまる。 1枚ページを見せるとそれを理解するために留まるべき「最低限これだけの時間」という感覚がある。

小さな図や文字で枚数だけを押し込めばいいというものでもない。 続きのページで 同じ絵を同じ位置に配置するテクニックを使ったりもする。 絶対のルールではなく、あくまで目安ではある。 が、初心者はあれもこれもとページを無尽蔵に増やす傾向があるので、 枚数の上限を心掛けると良いだろう。

1.2 卒業研究の最終の発表なのに「今後の方針」

卒業研究最後の発表なのに、 「今後の方針」というスライドを載せる人がいる。 中間発表だったら「今後の方針」は良い。 そのあとも研究続けるので、むしろ載せなければダメなレベル。 でも最後の報告なのに「今後の方針」と言われると、 「卒業せずに来年もやる」という意味になってしまう。 大学院に進学してその研究を続ける場合は まあ許容できなくはないが、 それでもその時点で一つの研究が完了している筈である。 完了しているならば、「今後の方針」を述べるべきではないだろう。

2 ページ内の配置

2.1 ページ番号の付与

ページ番号を付与すべき。 他人と議論するときに、「何ページのスライドで……」とすることでスムーズに議論に入れる。 「ピークのあるグラフが描いてあるスライドで……」とどちらがコンパクトで分かり易いか。 PowerPoint なら自動でつける仕組みがある。

2.2 ページ番号は右上がオススメ

ページ番号を右下に付ける人がいる。 ないよりはとてもいいが、ここがベストだろうか。 スライドの下端は頻繁にオブジェクトによって占有される。 スライド作成中にページ番号を避けることをその都度意識するのは面倒だ。 ほとんどのスライドで、最上部にタイトルがあり、その左右が空いているだろう。 左上か右上が、他の邪魔になりにくくていい。 左上はタイトルを左詰めしているとそこが窮屈になるし、 横書きベースの資料を見るとき人間の目は左上から見ていくので、ページ番号がタイトルより目立ってしまう。 これらの観点から、右上がベストだと私は思う。

2.3 図だけのページは避ける

図だけのスライドだけを作る人がいる。 図があったら、図を使って何か説明する筈だ。 その説明を文字でも記しておくべき。 そのスライドを見ただけで何を言うのか聴衆が把握できるようにするということ。 何を喋るのかが分からなければ、 聴衆は発表者の言葉を一言一句として聞き漏らさないように集中し続けなければならない。 また、発表者自身にとってもそのページで喋ることを忘れずに済むので、 脳の負担が減るだろう。

2.4 文字だけのページは避ける

絵のないページは、見ていて退屈。 本を読んでいて文字だけのページより写真や絵があるページの方が楽しいと感じたことはないだろうか。 聴衆を楽しませることは科学の本質ではないが、 伝える所までが仕事だと考えればそれは結構大事なことと言える。 絵を作りようがない概念などもあるので、「文字だけのページ」は「図だけのページ」よりはありうることだが、 できるだけ避けるよう心掛けた方が良い。

3 テキスト

3.1 文章を避けて キーワードの箇条書き

スライド上に長々と書かれた文章を読み上げる発表者がいる。 多くの人間は読む方が早いため、聴衆は内容を把握した後に退屈な時間を持て余すことになる。 そして別のことを考え出し、あなたの発表本体に戻り損ねることもある。 注目すべき部分が目立たず、聴衆は多くの文字列、長い文章を読むことになる。 君は目立たせるべき言葉を、言葉の森の中に隠していることになる。 スライド上では文章を書かず、キーワードを抽出してできるだけ簡潔にまとめるべき。 キーワードに対して適宜口頭で言葉を補うスタイルだと、 適度な緊張感があって聴衆が入り込み易くなる。

x が増加したと考えられる

x が増加

例外は、目的と結言。 これらはある程度は長い文章も適当となる。

3.2 フォントはゴシック系

フォントはゴシック体を基本とすべき。 まず明朝体とゴシック体の特徴を把握しよう。

論文には明朝体を使うべきだ。 多数の文字からなる文章で構成されている。 明朝体ならそのような紙面でも圧迫感を与え難いが、 ゴシック体では紙面がごちゃごちゃした印象になる。 論文はプリントアウトするのが基本であり、 安物のプリンタでもプロジェクタより遥かに高解像度であるため、 美麗な明朝体を十分に表現できる。 レーザープリンタはプロジェクタよりも 白黒をよりはっきり表現できるため、 明朝体のハライの先まで綺麗に出力することができる。

対してプレゼンテーションでは、 ゴシックの方が適切と私は考える。 スライドは印刷ではなくプロジェクタで投影して使う。 プロジェクタは一般にプリンタよりも低解像度のため、 明朝体の持つ美しさを存分に表現できない。 プロジェクタは黒い部分もちょっと光っていたりして 細い線の視認がしにくくなる傾向がある。 紙媒体と違って、プレゼンテーションは聴衆が好きな距離で スライドを見られるわけではない。 混雑した会場では後ろにしか空席がない場合もあるだろう。 最後列の席からでもしっかりと視認できる必要があるため、 視認性に優れるゴシック体が適切だ。 スライドは基本的に キーワードを抽出している筈なので、 ごちゃごちゃした紙面になる程の文字の羅列は そもそもスライドの作り方が不適当とも言える。

以上の理由で私は論文などの文章には明朝体、 スライドにはゴシック体を使っている。

趣味の問題でもあるので明朝体でも別に問題ない。 特に、芸術性を重視する人はそうすべきだろう。 しかし初心者はまずゴシックから始めてみて欲しい。

3.2.1 英語スライド

英語で発表するときの文字は、 ゴシックよりも Times 系の方が良いかもしれない。 アルファベットは漢字や平仮名よりも記号性が高く、 Times 系の美しさの利点の方が上回る気がする。

3.2.2 予稿とポスター

予稿は論文に準じるもので、明朝体を使うべき。

ポスターはどうしよう? 紙媒体への印刷という点では明朝体にすべきだし、 遠目からの視認性という点ではゴシック体にすべきだ。 私は今のところ、ゴシック体のほうがより適切と考えている。 通りがかりや、少し離れた所からの視認性を重視すべきと考えている。 スライドと同様、ポスターでも文章で埋めるべきではなく、 キーワードを提示するのに留めるべきと考えているからだ。 しかし明朝体の美しさも捨て難い。 ポスターは研究者が行う発表の媒体の中で、 最も芸術性が許容されうる形式だと思う。 わずかな視認性を犠牲にすることでとても美しくなるのなら、 明朝体を選ぶべきだろう。

3.3 フォントサイズ

私は、フォントサイズは 24 pt を下限としていて、 それより小さなサイズは明確な理由を持ってから使用する。 発表内容は、その室内で最後列の人からも読める必要がある。 だいたいこのくらいのサイズで読める程度である部屋が多い。

4

予稿で使った絵は、スライドでもそのまま使う。 変更、修正は基本的にしない。

折れ線グラフは間を補完できるという主張を含む。 たとえば、出席番号を横軸に、身長を縦軸にしてプロットするとしよう。 折れ線で補完される「出席番号 1.5」の値に意味があるか?いやない。

ぐにゅっと曲がるスプライン曲線みたいなものを出す場合、 「その曲線のように遷移する」と主張していることになる。

図を作るときに、論文本体で使える図にすることを想定しておく。 PowerPoint のオブジェクトを使っていたりすると、 別の場所で使う時に配置の調整をしたり 作り直す必要があったりする。 目先の作業だけでなく、 将来の研究活動全体を見据えて最も手間が節約できる方法を考える。

5 色使い

5.1 背景に溶ける色は避ける

黄色を使うときは注意する。 白背景で黄色い文字や線は背景に溶けて見えなくなる。 黄色系統で色を使いたい場合は、明度を下げて背景とのコントラストが大きくなるようにすべき。

黄色ほどではないが、緑も溶け易い。 何かを3つに分類するときに、光の三原色の赤青緑を使うことはよくあるが、 緑は人の目には特に明るく感じやすい色で、赤や青に比べて白背景に対する明度差が小さく感じる。 結果、緑に割り当てられたものが赤青に比べて目立たなくなってしまう。

5.2 色のイメージ

イメージどおりの色を使うのが基本。 陽イオンに赤、 陰イオンに青を使うといったこと。 逆の色を使っても間違いではないが、 聴衆の脳内で把握、認識の処理が無駄にかかる。 聴衆にはこんな些細なことに気を取られず、 発表の本筋に集中してもらいたいものだ。

メリットとデメリットをそれぞれ何色にするか問題。 私にとってはメリットが青、デメリットが赤のイメージ。 信号機のイメージが強いのだろう。 メリットが赤、デメリットが青という人もいる。 曰く、赤は正の、青は負のイメージらしい。 自分なりの感覚で統一が取れていれば良いと思う。 ただこのような場合でも、 メリットの赤は橙に寄せて優しい暖かさを感じる色に、 デメリットの青は深い青にして厳しい冷たさを感じる色にすべきだと私は思う。

5.3 背景色

背景色は好みの問題が大きい。 自分が楽しくスライド作成や発表できる色を選べば良いだろう。

なお、私は白を選ぶ。 文字をはっきり見せるには、明度差を大きく取る方がいい。 そのためには背景が白か黒が最も有利となる。 背景が暗いスライドは、白い筈の文字が何か暗く見え易い。 また全体が暗くなって眠気を呼び易い。 これらのことから私は白背景がベターだと思う。

6 発表練習

できるだけ、発表で使う機材(ノート PC, タブレット) を使って練習する。 教員を前にした発表練習は特に。 当日スムーズに発表できるように、プロジェクタの接続なども一度やっておく。 練習時に遭遇したトラブルは、解決策を理解すれば、最早トラブルではない。

PowerPoint などのプレゼンテーションソフトウェアの使い方の練習も含めて、準備である。

教員に見せて指導を受ける際には、 ノートか配布資料を自分用に印刷しておくと良い。 メモを素早く取るためである。 「修正箇所」の情報を矢印一個で済ませることができる。

7 発表

セッション前の休憩時間に接続確認する。 また、座長にも挨拶しておくべき。 座長にはセッションを滞りなく進める責任があり、 きちんと発表者が来ているか気をもんでいる。 氏名やタイトルの読み方を確認される場合もある。

最初のページにタイトルと氏名が載っている筈だが、 座長が紹介で言ったら、自分では言わなくてもいい。 座長と自分の両方が言えば、 聴衆にとって重複する情報に時間を使っていることになる。 私はタイトルをもうちょっと膨らませて「〜〜について報告します」とする。

スクリーンに体を向けない。 基本的に聴衆に向かって声を飛ばすイメージで。 原稿を読まない。 原稿を読むと視線が落ちる。 聴衆に語り掛けるように、視線を向けるべき。 喉も窄まって、声が飛ばない。 諸君らは教科書の朗読をするだけの授業に当たったことはないだろうか。 それと受講者に語り掛けるような授業と感じ方は違わなかっただろうか。

ポインタは聴衆に向かってスクリーンに近い側の手で持つ。 スクリーンに向かって左側に演台がある場合、左手で持つべきだ。 遠い方の手で持てば、ポイントしながら喋るときに体と顔がスクリーンに向いて 聴衆に向かって語り掛ける感じがなくなる。

ポインタを振らない、回さない。 レーザーポインタでポイント先がフラフラしていると、見ている者の視点が定まらない。 人間の目は動いているものを追う習性がある。 できるだけ、じっと留まらせてポイントすべきだ。 私は、できるだけ両手でレーザーポインタを持つようにしている。 そうすると、揺れにくいし自然と振り回すことがなくなる。

レーザーを点けていない時でもポインタを聴衆に向けない。 クラスが低いレーザーであっても、眼に入るのは嫌だ。 ガンマンは銃口を無闇に人に向けないものだ。

「ご静聴ありがとうございました」と書いたスライドは不要。 謝意を示すことはマナーとしては上等だが、口頭で十分。 謝意スライドを表示することで、結言を書いたスライドが見えなくなる。 座長が質問を受け付けている間や、質問者が話し始めている間でも、 可能な限り内容に関する情報を表示し続けるべきだ。

8 質疑応答

質問やコメントで発言が始まれば、すぐに対応するページや予備スライドを表示する。 相手が喋ってる最中でも聞きながら、めくっていく。 できるだけ、早く図を使って議論できるようにする。

質疑応答で指摘を貰ったら、謝意を示すべき。 たとえそれが自分にとって的を外した意見に見えたとしても。 あるいは手痛い指摘であればなおさら。 より良い意見を得るために、 相手が気持ち良く指摘できるようにして集まる意見の数が多くなるように振舞うべき。 そこから取捨選択するのは、後で自分でやればいい。

質問に対して、初心者は「自分が何をしたか」を答えようとする傾向がある。 本当に答えるべきは、質問者が抱いた「何故?」に答えること。 「その方法で良いという理由」や「前提で無視した要素の影響が小さいこと」など。

会場から厳しい質問がなかったので「なんとかやり過ごした」と安堵する初心者がいる。 質問者が求めた知識に正しく応えた結果なら良いが、 もしそれが発表内容を質問者が理解できなかったことに由来するのなら、 それは発表者の敗北と認識すべきだ。 発表者の使命は、聴衆に理解させること。 発表内容を理解できたら少なくとも発展的な応用について具体的な質疑ができる筈だが、 それがなかったということは理解させられなかったということになる。